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『嵐(テンペスタ)』 by ジョルジョーネ

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    謎。
    謎の絵。
    画面左側には、長い錫杖の様な棒を持った若い男性が立ち、その反対側には幼子を抱きかかえた、半裸の若い女性が座る。幼子の母親なのだろうか。そして、その若い男性は...。
    しかし、ふたりは互いに視線を交わす事はない。男性の暗い表情は、女性に一瞥を与えてる様にも思えるが、女性は一顧だにしない。それどころか、己の乳を食む幼子にすら、興味を抱いていない様だ。
    彼らの遠景には河が流れ、その河をまたぐ橋は、街道を都市へと促している。
    そしてその遥か、黒雲が湧き、雷鳴が轟いている。
    嵐がやってくる。


    作品名:嵐(テンペスタ)
        La Tempesta
    画 家:ジョルジョーネ
        Giorgione
    美術館:アカデミア美術館イタリアヴェネツィア
        Gallerie dell'Accademia, Venezia, Repubblica Italiana


    作品名の『嵐(テンペスタ) / La Tempesta』というのは、この作品が発見されたガブリエーレ・ヴェンドラミン / Gabriele Vendramin邸に記録されていた『嵐と、ジプシー女と兵士が加わる風景、このキャンバスはジョルジオーネの手になる / il paesaggio con il temporale, con la zingara e soldato...di mano di Giorgione di Castelfranco』に、便宜上、由来しているだけの事、だそうです。
    ここに描かれてる人物達が、ジプシー女なのか、兵士なのか、定かではなく、それ以上に、主題すらも判明していません。

    画家本人とその愛人を描いたとする説。
    画家の両親と産まれたばかりの己自身を描いたとする説。
    ギリシア神話 / Greek Mythologyに由来するという説。
    旧約聖書 / The Old Testamentの一場面とする説。
    聖テオドロス / Teodoro di Amaseaの逸話を描いたとする説。
    当時の文学作品である、フランチェスコ・コロンナ / Francesco Colonnaの『ポリフィロの狂恋夢(ポリフィロの夢) / Hypnerotomachia Poliphili』を題材にしたという説。
    慈愛の寓意画 / Allegory Of Charityだとする説。

    枚挙にいとまはありません。
    何故、こんなにもありとあらゆる説が産み出されたのか。

    わたしが思うに、ここに描かれたいくつかの素材(男性、女性、幼子、河の流れ、橋、都市の風景、迫り来る嵐の描写)の総て、そのひとつひとつが、関係性をもっていないからではないか、と。
    否。
    絵画作品としてのひとつの世界やその調和、そして勿論、美しさというものは、この作品の中で充分に表現されているのにも、関わらずに、それぞれの素材が独自の存在感のみを主張しているから、ではないでしょうか。

    シュルレアリスム / Surrealismeから産まれたコラージュ / Collageは、同時に共存しえない素材を、半ば強引にひとつの作品の世界に定着させて、新しい世界を創出させます。
    解剖台の上でのミシンとこうもり傘の出逢い / Beau comme la rencontre fortuite d'un parapluie et d'une machine a coudre sur une table de dissection」の様に。

    この作品は、それとは全く逆方向のベクトルを示している様な気がするのです。本来ならば、ある情景やある挿話や現実にある景色を描く為に誂えたその素材が、それを物語る事を放棄してしまった様な。

    下に掲載するのは、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス / John William Waterhouseによる『テンペストより、ミランダ / Miranda - The Tempest』。
    ウィリアム・シェイクスピア / William Shakespeareの最期の戯曲とされる『あらし(テンペスト) / The Tempest』を主題に描かれたものです。
    この作品で描かれている様な、ヒロインであるミランダ / Mirandaが転覆した帆船を見守る描写は、果たして、原典となる戯曲の中に、描かれていたのかどうか。
    そう尋ねられると、覚束ない記憶で、戸惑ってしまうけれども、ウィリアム・シェイクスピア / William Shakespeareが想い描いた物語の発端である事は、この作品を観れば、即座に理解出来ますね。

    ちなみに<ジョルジョーネ / Giorgioneが『嵐(テンペスタ) / La Tempesta』を制作したのは、1505 - 1507年頃。
    ウィリアム・シェイクスピア / William Shakespeareによって書き上げられた『あらし(テンペスト) / The Tempest』が、初演されたのが1612年。
    そしてさらに、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス / John William Waterhouseが『テンペストより、ミランダ / Miranda - The Tempest』を描いたのは1916年です。


    るい rui, the creature 4 =OyO= * criticism : art * 15:07 * comments(0) * trackbacks(0) * -

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