<< October 2020 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< Marlene Dietrich in "Morocco" | main | 詩『斎場にて:At A Funeral Hall For』 >>

『聖ペドロ・ノラスコに現れる聖ペテロ』 by フランシスコ・デ・スルバラン

0
    すべてはまぼろし。
    そのまぼろしを体験する自身にとっては、それは驚きであり、それは畏れであり、そしてそれは戦きである。だけれども、自らにとってはそれは避けがたいモノであり許しがたいモノであると同時に、受け入れざるを得ないモノなのかもしれない。
    何故ならば、それを欲したのは、己自身であるが故なのだ。
    だからこそ、他者にとっては決して、あり得ないモノでしかなく、それ故に、それがまぼろしである証左なのだ。


    作品名:聖ペドロ・ノラスコに現れる聖ペテロ
        Aparicion del Apostol San Pedro a San Pedro Nolasco
    画 家:フランシスコ・デ・スルバラン
        Francisco de Zurbaran
    美術館:プラド美術館スペインマドリード
        Museo Nacional del PradoMadrid, Espana


    異様な光景です。
    真っ暗な背景の中に、磔刑 / Crucifixionになった人物が、中空に、しかも転倒した姿勢で浮かび上がり、なにかを告げようとしている様に観えます。そして、その磔刑 / Crucifixionの人物を正面に見据える人物は、彼の救出に手をこまねいているのか、それとも、彼の語る言葉の意外な響きに混乱しているのか、跪いたままです。

    画面左の磔刑 / Crucifixionの人物が聖ペテロ / Simon Petrus、画面右の跪いている人物が聖ペドロ・ノラスコ / San Pedro Nolascoです。

    聖ペテロ / Simon Petrus12使徒 / Apostoliのひとりで、初代のローマ教皇 / Papaとされている人物です。『ペトロ行伝 / Acta Petri』等によれば、その最期は当時のローマ皇帝 / Imperator Romanus ネロ / Nero Claudius Caesar Augustus Germanicusの命による逆さ十字架の刑 / Crucified Upside Downとありますから、この作品で観る事の出来るその姿は、絶命間際のモノと解釈出来ます。

    一方の、聖ペドロ・ノラスコ / San Pedro Nolascoベリス・メルセス宣教修道女会 / Mercedarias Misionerasを組織した人物で、この作品は、聖ペドロ・ノラスコ / San Pedro Nolascoの一生を描いた連作のひとつ、ベリス・メルセス宣教修道女会 / Mercedarias Misionerasから画家に依頼されたモノだそうです。

    だから、おそらく、ここに描かれた光景は、旧くから言い伝えられたままのモノをそのまま描いたモノなのでしょうし、そして、それはそのまま信者にとっては、揺るぎない、聖人 / Sanctusの永い物語の、一挿話なのでしょう。

    だけれども、信者ではないわたしの様なモノから観れば、奇異なモノであって、どうしても違和感を感じざるを得ないのです。

    ひとつは、聖ペテロ / Simon Petrus逆さ十字架 / Crucified Upside Downで登場しているという点、もうひとつはその結果としての、ふたりの立ち位置と交わされている視線です。

    前者の疑問はなんとなく、解ります。先ず、逆さ十字架 / Crucified Upside Down
    聖ペトロ十字 / Cross Of St. Peterでの登場によって、誰の眼から観ても、この人物が聖ペテロ / Simon Petrusだと、理解可能だろう、という点。
    そしてこの人物の、聖人 / Sanctusというには、あまりに人間臭い点です。

    ペテロの否認 / The Denial of Saint Peter』として知られる挿話(これはよっつの福音書 / Evangelium総てに登場します)では、捕縛に顕われた官憲に対し、三度も己の身分を騙った事が書かれています。
    また、『ペトロ行伝 / Acta Petri』では己の生命の危機を危ぶんで、ローマ / Romaから逃亡したものの、自身の身替わりになる為に顕われたイエス・キリスト / Jesus Christと出逢い、避けられぬ己の死を自覚し、殉教 / Martyrの為に、ローマ / Romaへと帰還します。
    その結果としての逆さ十字架の刑 / Crucified Upside Downなのです。だから、もしかすると、彼が聖人 / Sanctusに列席されたのは、それまでの信仰の努力でも布教の成果でもなくて、逆さ十字架の刑 / Crucified Upside Downになって殉教 / Martyrした、その点を評価されたのかもしれません。
    ちなみに、逆さ十字架 / Crucified Upside Downをシンボル化させたモノを聖ペトロ十字 / Cross Of St. Peterと言います。

    と、言う様に、末期の姿となって聖ペテロ / Simon Petrusがここにこの様な姿となって描かれている理由はいくつも考える事が出来ます。
    だけれども、もうひとつの疑問は、どうしても解釈の落とし処がありません。

    それは、聖ペテロ / Simon Petrus逆さ十字架 / Crucified Upside Downになって転倒している為に、聖ペドロ・ノラスコ / San Pedro Nolascoを仰ぎ観る構図となっている事です。別の表現をすれば、聖ペドロ・ノラスコ / San Pedro Nolasco聖ペテロ / Simon Petrusを観下ろしているのです。
    ふたりの人物の地位やちから関係から考えると、逆転した構図になっているのです。
    それが、この作品を観るわたしには不思議な、不可解な印象を与えているのです。

    下に掲載するのは、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ / Michelangelo Merisi da Caravaggioによる『聖ペテロの磔刑 / Crocifissione di San Pietro』。


    るい rui, the creature 4 =OyO= * criticism : art * 05:32 * comments(0) * trackbacks(0) * -

    スポンサーサイト

    0
      スポンサードリンク * - * 05:32 * - * - * -

      comments

      entry your comments









      trackbacks

      このページの先頭へ