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『自画像(渦巻く青い背景の中の自画像)』 by フィンセント・ファン・ゴッホ

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    淡い蒼を背景にして、男の顔が鮮やかに立ち顕われる。背景色の補色で彩られた、男の髪や髭が鮮明に浮き上がる中で、観るモノの視線は、次第にたったひとつのモノを注視せざるを得なくなる。
    男の眼だ。険しい眉間に縁取られているふたつのまなこは、鋭く激しく、対峙している鑑賞者の視線ばかりか、そのこころの底までも射抜くかの様だ。
    しかし、わたし達はそこで初めて気づく。わたし達のこころの底までも見透かそうとしているのは、男の双眸ではない。
    作品全体を彩る、うねうねうねと激しくのたうつ渦なのである。


    作品名:自画像(渦巻く青い背景の中の自画像)
        Portrait de l'artiste par luimeme
    画 家:フィンセント・ファン・ゴッホ
        Vincent van Gogh
    美術館:オルセー美術館フランス共和国パリ
        Musee d'Orsay, Paris, France


    フィンセント・ファン・ゴッホ / Vincent van Goghは、彼の短い生涯の中で、いくつもの自画像 / Zelfportretten van Vincent van Goghをものしていますが、今回紹介する『自画像(渦巻く青い背景の中の自画像) / Portrait de l'artiste par luimeme』は、その最末期のモノです。
    時季的には、盟友とも言えるポール・ゴーギャン / Paul Gauguinとの諍い (!?) から端を発した耳切事件 / The Ear Incidentの後、アルル / Arlesからサン=レミ=ド=プロヴァンス / Saint-Remy-de-Provenceへとそしてさらにオーヴェル(オヴェール)=シュル=オワーズ / Auvers-sur-Oiseへと、転居した頃の作品です(そして画家はオーヴェル(オヴェール)=シュル=オワーズ / Auvers-sur-Oiseで亡くなります)。この間、約2年あまりの間の出来事です。
    そして、その転居後つまり、耳切事件 / The Ear Incident後から、画家独特の画風とも言える、うねうねうねと激しくのたうつ渦巻きが顕われるのです。

    ところで、本作品のタイトルにも取り上げられている、うねうねうねと激しくのたうつ渦巻きですが、基本的には、その描写によって、後景や空気感を描いているモノ、つまり作品の主題を立ち顕わす為の役割の為のモノである筈です。そして、実際に画家はその様なモノとして作品世界を描くよすがにしていると想われます。
    だけれども、観るモノには、何故だかそれ以上の存在感をもって、うねうねうねと激しくのたうつ渦巻きが迫って来るのです。そして、それは、本来は主題である筈の、前景や建築物や人物等を呑込んで、画面全体が、うねうねうねと激しくのたうつ渦巻きだけで、構成されている様に想えてしまうのです。

    もしかしたら、画家が真に描きたかったのは、風景や建築物や人物ではなくて、うねうねうねと激しくのたうつ渦巻きそのものではなかったのか、そんな風に想えて来るのです。

    だからもしかすると、画家自身がその事に気づき、うねうねうねと激しくのたうつ渦巻きそのものを、自身の作品の主題や表現に選んだとしたら、もう少し、己の生涯を先へと延ばせたのではないだろうか、破滅とも呼びうる己の不幸な死を避け得たのではないだろうか。そんな事も考えてしまいます。
    つまり、画家自身が描こうとすべきなのは、その素材に備わっている核心でも本質でもない。自分自身の内面をそのまま描けばよいのだ、そんなところに得心がいけば、例えば抽象的な作品や心象的な作品へと、新たな主題や新たな表現へと素直に向かえたのではないでしょうか。

    つまり、わたしは、画家が、己が立ち向かっている対象と、それに立ち向かっている己との間に、引き裂かれてしまった事が、画家の不幸ではないのかと、考えているのです。彼は恐らく、その両方をひとつのヴィジョンに収斂させようと、虚しい努力に勤しんでいた。そんなふうに考えているのです。

    下に掲載するのは、『自画像(渦巻く青い背景の中の自画像) / Portrait de l'artiste par luimeme』が描かれた1889年と、同年に描かれたポール・ゴーギャン / Paul Gauguinの『光輪のある自画像(戯画的自画像) / Portrait-charge de Gauguin』。


    るい rui, the creature 4 =OyO= * criticism : art * 12:43 * comments(0) * trackbacks(0) * -

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