<< August 2019 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< Francoise Rosay in "Pension Mimosas" | main | 詩『結露:Teardrops On My Window』 >>

『魔女キルケ(魔女メリッサ)』 by ドッソ・ドッシ

0
    嗚呼、また、彼女の犠牲者が顕われる。俺とおなじだ。俺と仲間だ。俺が陥った彼女の罠に、俺とまったくもって同じに、堕ちてゆく。死よりも苦しい、辱めだ。腕を喪い、声を喪い、そして次第に、智慧も記憶も失われてゆく。俺が誰だったのか、俺のちちははにも、解るまい。俺も彼らのこえもかたちも忘れてしまった。


    作品名:魔女キルケ(魔女メリッサ)
         La maga Circe o Melissa
    画 家:ドッソ・ドッシ
        Dosso Dossi
    美術館:ボルケーゼ美術館イタリアローマ
        Museo e Galleria Borghese, Roma , Italia


    画面中央に腰掛ける女性の足許には、わたし達には判読も出来ない様な文字が刻まれた、魔法陣 / Magic Circleがあります。その中にあって、彼女は金色に輝く石版を右腕に抱き、足許にある香炉に燃える炎から、左掌にした松明に炎を点さんとしています。
    異教的なモノ、秘教的なモノに耽っている彼女は正に魔女 / Witchと呼ぶべき存在なのかもしれませんが、その語句から受ける印象のままに、彼女を観ると、その紅の衣装の艶やかさに映える彼女の表情は、ままりに端正で、調和のとれた美しさに溢れている様に観えます。

    描かれている女性の解釈を巡って、ふたりの人物の名前が挙げられています。
    ひとりは、ホメロス / Homerosが顕した叙事詩 / Epic『オデュッセイア / Odysseia』に登場する魔女 / Witchキルケー / Circe
    ひとりは、ルドヴィーコ・アリオスト / Ludovico Ariostoが著した叙事詩 / Epic『狂えるオルランド / Orlando furioso』に登場する魔女 / Witchメリッサ / Melissa
    ただ、どちらの解釈においても、決定的な決め手がつかず、この作品を収蔵しているボルケーゼ美術館 / Museo e Galleria Borgheseでも、『魔女キルケ もしくは 魔女メリッサ / La maga Circe o Melissa』と両者の名前を併記しています。

    わたしがこの作品を知ったのは、『幻想の肖像』(澁澤龍彦 / Tatsuhiko Shibusawa著)で、そこでは著者は、両説がある事を明記しながらも、キルケー / Circe説によってたって、本作品を紹介しています。

    だから、この作品の中から、メリッサ / Melissa説を傍証する寓意 / Allegory等を独力で見出すのは困難なのですが、キルケー / Circe説の側から、本作品を観るのは、決して難しい事ではないと想います。

    それは、魔女 / Witchと看做しうる女性の傍らに控える狗の存在です。その、表情がとても摩訶不思議な面持ちなのです。
    単純に、普段わたし達が観る事のない、真正面からみる狗の顔が描かれているから、とも解釈出来ますが、それはそのまま、何故、真正面から観た狗の顔を描いたのだろう、という疑問が生じると同時に、キルケー / Circe説へと横着させるのです。

    「彼女は伝説的な島アイアイエーに住み、磨いた石で建てられた壮麗な宮殿のなかで、歌を歌いながら一日中、豪華な織物を織っている。
    その宮殿のまわりには、おそろしい狼や獅子がうろついているが、それらの獣はいずれも、この魔法使の魔酒を飲まされて、獣に変身させられてしまった男たちなのである」(以上、『幻想の肖像澁澤龍彦 / Tatsuhiko Shibusawa著より)

    つまり、この狗もまた、「獣に変身させられてしまった男たち」の中の一人ではないかと、充分に考えられると想うのです。
    そうやって、あらためてこの作品の中の狗を観ると、哀しげにも、嘆かわしげにも、その表情が観えてしまうのです。

    下に掲載するのは、同じ画家による『風景の中のキルケと恋人たち / Circe And Her Lovers In A Landscape』。ワシントン・ナショナル・ギャラリー / National Gallery of Art, Washingtonの所蔵作品です。
    そこに描かれているのは、全裸の女性と鳥々や小動物達ばかりなので、キルケー / Circeの逸話を知らなければ、怪訝な想いに捕われるかもしれません。
    でも、上に引用した『幻想の肖像』(澁澤龍彦 / Tatsuhiko Shibusawa著)からの文章があれば、大丈夫でしょう。女性の周囲にかしづくモノこそが皆、作品名に掲げられた"恋人たち / Her Lovers"なのですから。


    るい rui, the creature 4 =OyO= * criticism : art * 06:50 * comments(0) * trackbacks(0) * -

    スポンサーサイト

    0
      スポンサードリンク * - * 06:50 * - * - * -

      comments

      entry your comments









      trackbacks

      このページの先頭へ