<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< 『潮騒』 by 三島由紀夫 | main | 詩『クリスマスが来る前に : before the christmas』 >>

『忘れえぬ女(見知らぬ女性)』 by イワン・クラムスコイ

0
    黒衣を纏った貴婦人が、(恐らく)馬車の上から、わたしたちをみおろしています。
    淡い乳白色の背景、それは多分、北国の都でしょう。その輝きを背景にして黒衣の女性はくっきりと浮びあがり、彼女の表情を窺い知る事が出来ます。だからと言って、その表情から彼女のこころの中を読み取る事は出来ずに、観るものに不思議な印象だけを遺します。


    作品名:忘れえぬ女(見知らぬ女性)
        Неизвестная / Neizvestnaya
    画 家:イワン・クラムスコイ
        Ivan Nikolaevich Kramskoi
    美術館:トレチャコフ美術館ロシアモスクワ
        
    The Tretyakov Gallery, Moscow, Rossiyskaya Federatsiya

    オリジナルのロシア語の題名は『Неизвестная / Neizvestnaya』といって、どこの誰とも解らない「見知らぬ女性」という意味です。ところが、この作品を日本では原義通りの「見知らぬ女性」というタイトルの他にもうひとつ、別のタイトルが存在します。

    『忘れえぬ女(ひと)』

    「見知らぬ女性」と「忘れえぬ女」では、日本語としては大きな隔たりがあります。しかし、これは誤訳というよりも、作品に描かれた女性の表情の、解釈の違いから生じたのではないでしょうか?

    明らかに車上のその女性は、わたしたちを見下ろしています。黒い衣服に身を包んだ彼女の表情からは、様々なものを読み取る事が出来ます。"上から目線"だから、一見、尊大とも傲慢とも解読出来ます。また、その一方で、憂いに満ちた表情にも悲しみをたたえた表情にも読めます。
    この女性と、彼女を仰ぎ観るものとの関係はどの様なものだったのでしょうか? 街中の大通りでのほんの一瞬の邂逅とも想えますし、恋人との別れの場面にも想えます。
    そしてまた、"一瞬の邂逅"だからこその「見知らぬ女性」と呼ぶ事も出来ますし、逆にまた"一瞬の邂逅"だからこそ強く印象づけられた女性の面影、「忘れえぬ女」という解釈もあり得ます。
    勿論、"別れの場面"ならばこそ、その別れ方に悲劇的な彩りが加えられているのならばなおさらの事、元恋人はその女性を「見知らぬ女性」とも「忘れえぬ女」とも呼ぶことになります。

    ところで、この様な題名の誤読?は、日本だけかしらと想ったら、本国ロシア / Rossiyskaya Federatsiyaでも同じ様な現象があるそうです。正式なタイトルはロシア語で「ニェイズスナヤ(Неизвестная)」と読むそうですが、ヒトによっては「ニェイズナコムカ(Незнакомка)」とも呼ぶそうです。意味的にはどちらも「見知らぬ女性」となるそうですが、「ニェイズナコムカ(Незнакомка)」はロシアの象徴派詩人アレクサンドル・アレクサーンドロヴィチ・ブローク / Aleksandr Aleksandrovich Blokの詩『Незнакомка/ Unknown Woman』のタイトルです。
    この詩で描かれた女性のイメージが、この絵画作品を観るものの、女性像に投影されているのではないかとの事です。

    ちなみに下に掲載した作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチ / Leonardo da Vinciによる『ミラノの宮廷婦人の肖像』こと『Portrait Of An Unknown Woman』。ただし、この場合の"Unknown"は、"名もなき"とか"(人物を特定出来ない)無名の"という様な意味合いだと想われます。

    るい rui, the creature 4 =OyO= * criticism : art * 12:56 * comments(4) * - * -

    スポンサーサイト

    0
      スポンサードリンク * - * 12:56 * - * - * -

      comments

      >税理士窪田さん

      こんばんはです!

      拙ブログの拙文にTBとコメントをお寄せ頂きありがとうございます。

      >るいさんみたいな訳には行きません。
      お誉め頂きありがとうございます。
      でも、一年以上前の文章なので、読み返してみると、言葉足らずだったり、論旨が通っていなかったりで、赤面してます。

      >今回、7回目か8回目の来日
      かなり頻繁に来日されているんですね。
      題名といい、もしかしたら本国よりも人気があるのかもしれませんね。

      >ようやく観る事ができそうで非常に楽しみにしています。
      美術作品って、どんなに精巧な写真集で観ても、ホンモノで観た時の感動は比べものにならないそうですね。もし、"ご本人"にお会い出来たら、その感想を読まさせて頂けると嬉しいです。

      ありがとうございました。
      こちらこそ、今後とも宜しくお願い致します。
      Comment by るい @ 2009/03/26 12:22 AM
      こんばんは

      TB、勝手にご紹介させていただいたにも拘らず、どうも有り難うございました。

      私の場合は、鑑賞力と文才が無いため、もっぱら気に入った絵を紹介するだけでして、
      るいさんみたいな訳には行きません。

      今回、7回目か8回目の来日だそうですが、
      ようやく観る事ができそうで非常に楽しみにしています。

      本当に楽しみです。

      今後とも宜しくお願いいたします。
      有難うございました。



      Comment by 税理士窪田 @ 2009/03/25 10:15 PM
      >【おとなのアート】さん

      はじめまして。コメントありがとうございます。

      >左眉だけがグイッと上がっていてすごく傲慢な印象
      そうなんですよね、凄い強い女性の印象があって、
      一見、ヤな女にみえちゃいますね。
      でも、大きな画像で掲載しているサイトで彼女の顔を観ると
      全然、違った印象を持ったりします。

      >もし宜しかったらサイトに遊びにお越し下さいませんか?
      はい。拝見させて頂きます。お誘いありがとうございます。
      Comment by るい @ 2007/12/16 6:55 PM
      はじめまして。
      確かに「見知らぬ女性」と「忘れえぬ女」では、かなりイメージが変わってきますよね。

      最初にこの絵を見た時、左眉だけがグイッと上がっていてすごく傲慢な印象でした。
      その強い印象の表情からすると「忘れえぬ女」の方がしっくりくるようにも思えます。

      申し遅れました、私は【おとなのアート】【おとなのコラム】というサイトの運営スタッフです。
      ここで、読者の方々からお送りいただくアート作品や書き物を毎週掲載しています。

      そして、素敵なアートを描く方、文章を書く方を日々探しています。
      もし宜しかったらサイトに遊びにお越し下さいませんか?お待ちしています。

      簡単ですがご挨拶です。
      失礼致しました。
      Comment by 【おとなのアート】 @ 2007/12/16 6:14 PM
      entry your comments









      このページの先頭へ