右腕が疼く
疼いた右腕は次第に次第に膨れ上がる
膨れあがったその右腕は もはやわたしの背丈程のおおきさだ
それでも膨れあがった右腕は 留まる事をしらない
まだまだまだまだ おおきくなる
おおきくなった右腕をひとりわたしが支えられるはずもない
いまや巨大な腕にしがみついているばかりなのだ
まだまだまだまだ おおきくなる
おおきくなった右腕はおのれの肩口のわたしにふと気づく
汚らしい蟲だなと さもそう言わんばかりに指先で
蟲になってしまったわたしをつかまえて
ぷちっと握りつぶしてしまうのさ
右腕が疼く
疼いた右腕はゆっくりふかく呼吸を始める
呼吸を始めたその右腕の背には ふかくおおきな亀裂がはしる
そうしてそこからまあたらしいしろい皮膚がみえてくる
ゆっくりふかくおおきくしずかに
呼吸のなみのたかまりにそれをみるわたしもおもわず息をのむ
いまや右腕から産まれるものをみつめているばかりなのだ
ゆっくりふかくおおきくしずかに
わたしの右腕から誕生したそれはわたしの存在におかまいなく
おのれのじかんおのれのくうかん それがすべてだと言わんばかりに
しろい皮膚があたりの闇に融ける頃 ひょいとみがるにちゅうがえる
いずこともないところへと消えてしまうのさ
右腕が疼く
疼いた右腕は、いろをかえかたちをかえはじめる
ゆびがのびるうでがのびるのびたゆびはうすい皮膜に覆われる
もうわかるだろう あなたにも わたしの右腕の企んでいることは
翼とかして いずこともなくわたしから去ってしまおうというのだ
だが残念ながら かれの企てのいっさいは水泡に帰す
片翼だけでは空もとべまい 天までとべまい どこへもいけまい
片手落ちなのさ このままさ
だから今でも惨めなかれはわたしの右腕 醜い黒い片翼さ
そして、行き場を喪った醜いおんながここにいる