父を送りに父とくるまにのっている
ふたりっきりの時間はひさしぶりだ
なくなってからははじめてなのはまちがいなく
生前の頃の記憶をたどっても
そこにいるのはおさないわたしと若い父なのだ
タクシーはふたりのみなれた街をはしる
わたしの登下校のみちを一挙にはしりぬけ、父の職場へとむかう
のっている最中、父がわたしに語るのは彼の職場のありさまだ
いくつもの専門用語がとびだしてちんぷんかんぷんのわたしに
きっとものたりなくおもっているのにちがいない
タクシーはきゅうな坂を一挙にかけおり
路肩にバウンドしてそこで停まる
海だった 青い海がそこにみえ
ふたりはくるまからおりるのもわすれ 呆然としている