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詩『むかしのあのひと:A Man Who Loved Me』

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    かがみにむかうわたしのうしろから
    髪をすくわたしの掌をとらえて
    そのひとはくちづけをする
    うなじ みみたぶ そしてのどもとへと

    どこかの映画でみたような光景だった
    このあときっとわたしはいのちをうばわれるのにちがいない
    そのヒロインならばそうおもっただろう
    その女優ならばそう演技しただろう

    だがわたしたちはおおきなこえをあげてわらったのだ
    そんな時代がかった物語とは無辺の場所にわたしたちはいる
    だからこそ そのひともそんなくちづけをこころみたのだ

    ひとつの行為にいくつもの意味がこめられていたその日々
    かがみをいま、のぞきこんでもそのひとがうつることもなく
    かがみにうつらないそのひとが吸血鬼であったこともない
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    詩『満月の冬:The Full Moon For The Winter』

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      のぼる月を背にしておんなたちがよこたわる
      浜辺で 砂漠で 回廊で だれもとおらぬ歩道のうえで
      そしてひとしずくのなみだをながす

      だれかがはかったわけではない
      そこになにかのもくろみがあるわけではない
      ただ、そのときがきたり 彼女たちはそうするのだ

      次第にみちる潮で彼女はぬれ
      かわいたすなは彼女をこごえさす
      うすくらいその場所で 月よりも輝かしいあかりのしたで
      あふれるなみだのそのわけをおのれに問う

      そうして翌朝 月のあかりでこげついた
      うすらくろい影だけがそこにのこされているはずだ
      しかしその影は 霜がおりれば 風がふけば たちどころにきえてしまう儚さだ
      だからその夜のできごとは 当人たちだけがしっている
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      詩『夢のなかの旅:A Journey In The Dream』

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        YSに

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        詩『みしらぬひと:An Alien』

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          街のなかでみかけたそのひとがきがかりでならない
          だれもがするようにそのひともし、だれもがさけることはおそらくそのひともさける
          でも、なにかがかみあわぬのだ

          わたしはひとり、そこでいつものように本をよんでいた
          ひとときのいこい、そんなおしゃれなものではない
          なにかにおわれてにげて、ようやくそこにたどりついたのだ
          そういえば、きこえはいいのだろうか

          そのときにみたそのひと そのさいにみたたちいふるまい
          もちろん五体満足でみだしなみもととのった一見りっぱな風采なのだった
          だがそれだからこそ 腑におちないなにかがきがかりになる

          それこそが物語の冒頭なのだろうか
          そしてふたたびこの街のどこかでそのひとに遭遇するのだろうか

          また 時間におわれ席をたたざるをえなかったわたしはそれ以来 その本は
          読みさしのまま 鞄のなかにある
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          詩『読書:Read A Book』

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            くろいかげがはしる
            よるのやみにまぎれて

            いまよんでいる本はとじちゃだめ
            さいごまでがまんしてよむのよ
            なぜって、さぁ、みんながそれをまっているから

            ねむいのも こわいのも
            さみしいのも ひとりぼっちなのも みんな わすれて
            おおきくひらかれたその頁にむかうのよ

            なぜって、さぁ、みんなあなただけがたよりなのだから

            はげしくあめがまどをたたき ふきあれるかぜがきをなぎたおしても
            その本のなかだけは別世界 いいこと、こことはちがう世界がまっているの

            そうしてあさをまっている だれもがみな
            そうしてよるのおわりをまっている あなたもそう

            だから、だれもねむってはならない
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            詩『発熱:Having A Fever』

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              なごりの秋の夜が 厳寒の早朝のようにかんじられる
              なのに、わたし自身のからだは真逆のようだ

              いつものいえ いつものへや いつものねどこが
              まったくみしらぬ土地であるかのようにかんじる
              よそよそしさをとおりこして 悪意すらかんじられるのだ

              よのなかはまったくわたしのことをそしらぬふりをしてとおりすぎる
              かつて愛したひと いまも愛しているひとも おそらくおなじだろう
              きっとくうきよりもかろく わたしがあった場所はすっぽりと空白だ
              わたしがおこなうべきはその空白の場に自分自身をおしこめることなのだろう

              ジグソー・パズルの最後のピース
              でもいまのそれはぬれて膨張し、ゆがんで大きくねじれている

              だからこうしていま、ぜいぜいとはく
              わたしのなかの過剰がなくなればきっと
              もとのわたしにもどる そのはずなのだ
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              詩『窓のそと 部屋のなか:Out Of The Window, In The Room』

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                惨劇はおきる

                農夫は今朝もでかける
                うねのむこう、杉林のいりぐち
                きのうのつづき、あしたへのそなえ

                こどもたちははしる
                ながれをながれるそれをおって
                歓喜そして嬌声
                しろいそれの正体にはまだきづかない

                よるになるまで よるがくるまで

                毎朝 あおぎみる尖塔の
                くろぐろとしたかがやきを だれもがみな
                たしかななものとしんじている

                しろい少女はこよい ヴェールをまとい
                婚姻の場へとむかう
                もう ここにかえってくることはないのだ
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                詩『ひき潮:Low Water』

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                  しずかにひきさがるのはまだいい
                  波があらそいをさけているのだから
                  たたかいの地はべつにある

                  しかし、すこしづつ砂にのまれてしずむそれは
                  けっしてわがみにはもどらない
                  大地のほしいままにされるだけだ

                  きしのむこうに しろい塔がいくつもみえる
                  むしたちがきずいたのだ
                  もうずいぶんになる
                  そしてまたくずれるのだろう

                  月ものぼらぬ夜の闇に わがみをかがやかせるにはどうしたらよいのだろう
                  海はひとり その巨体をふるわせて もだえている

                  かぜ つよいかぜ すべてをなぎたおすかぜがふくのは
                  まださきのことなのだ
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                  詩『体育館にて:At The Gymnasium』

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                    ながい垂線がいくつもいくつものびるなかに
                    それに直行するちいさな平行線がたがいちがいにならぶ
                    そして、それらのふたつの動きを断裂させるかのように
                    縦横無尽に直線や円弧がはしる
                    それだけに注視すれば、いつみても不思議な光景だ

                    いつもの朝、三々五々に生徒たちが入場する
                    描かれた直線や円弧の向こうには厳かな壇があり今朝の主役はそこにある

                    個別にばらばらに、それとも思い思いに
                    じゆうきままにうごいていたかれらの自在さは次第にうばわれていくことになる
                    統率者たちの登場だ

                    秩序が次第にそこにすがたをあらわして
                    動かざるべきひとつの構造がたちあらわれる
                    化学者ならばこれをなんと語りなんとなづけるだろう

                    今日という1日がこうしてはじまる
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                    詩『さけぶ:Yelling』

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                      身体のなかからわきあがるものをおさえきれない
                      身体の腔という腔からあふれだそうとするものをおさえきれない
                      おおあわてでてじかにあるものでふさぐしかない
                      自身の掌で たった2本の腕で わがくちをおさえるのだ
                      それでもねじまげた身体は正反対のほうへとそりかえる
                      ふきだそうとするものの なすがままなのだ
                      いつのまにか腕も掌もその役目をわすれ そればかりか軍門にくだる
                      いまやそれらは そのものに服従し柔順な奴婢とかしている
                      身体は空をあおぎ いまやほとばしらんとするばかりだ

                      そしてさけぶ おおきなこえでさけぶ わが身よさけよといわんばかりに

                      わたしはいま 自室の寝床のうえだ
                      まためざめてしまった さけぶ理由はわからない
                      そんな夢にそそのかされて
                      いまのわたしが おおきくいきをはく

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